小説「電子の海で真実の愛を見つける方法」/作:藤間丈司
マッチングアプリにおいて第一印象を決めるのはプロフィール。もちろん、興味を持ってもらうことも大切ですが、先に続かなくては意味がありません。その辺りの基本をお伝えします。
第三章「プロフィールの作り方」
土曜日のターミナル駅は人であふれかえっている。これで一度も会ったことがない相手を見つけられるのだろうか。ましてや、私はケイに自分の顔を教えていない。とりあえず、私は駅の時計台の前辺りにいることをマッチングアプリのメッセージで伝えておいた。近くに着いたら、また連絡をしてくるだろう。
そう思って私がスマートフォンをいじっていると、不意に「リョウコさんですか?」と声を掛けられる。
見上げるとアクセサリーを付けた茶髪の男だった。目がパッチリしていて、イケメンと言って良い部類のルックスだ。
「はい。ケイさんですか」
アプリの写真とそう違っていないので多分間違いないだろう。
「そうです。リョウコさん、かわいいですね。何で写真載せてないんですか。もったいないですよ」
「ありがとうございます。昨日登録したばかりなので、とりあえず手元にあったものを使っちゃったんです」
「そうなんですね」
「ところで、どうして私のことわかったんですか」
「オレ、サイキッカーなんですよ。運命の相手がわかる、みたいな」
何をコイツはいってるんだろうか。そう思ったことがどうやら顔に出ていたようで、男はすかさず付け加える。
「実際には、カバンにお話するきっかけになったキャラクターのキーホルダーがついてたから、リョウコさんかなと思って話し掛けてみただけですよ」
なるほど、そういえばそんなものを付けていたな。なかなかの観察力だ。どうやらただ軽いだけの男ではないらしい。
「お時間、あんまりないんですよね。近くにオレが知ってる喫茶店があるんですが、そこでいいですか。チェーン店ですけど」
詳しく聞くと全国チェーンの店だった。それならば、危ないこともないだろう。私はケイの提案を受け入れて店に行くことにした。
案内された店は適度に混んでいたが、席と席に余裕がある。じっくりと話をするにはピッタリな場所だった。店員に案内されて座ると、私はアイスティ、ケイはアイスコーヒーを頼んだ。店員が去った後、ケイは話をはじめる。
「改めまして、こんにちは。大沢圭っていいます」
「こんにちは。長谷部怜子です」
圭が本名を名乗ったようなので、私もつい本名で答えてしまった。とはいえ、名前がわかっただけで出来ることもそれほどないだろう。あまり気にしないことにする。
「ところで、怜子さんはどんなお仕事されてるんですか」
「アプリ開発ですよ」
「へぇ。知的な雰囲気の方だなと思ってたんですが、やっぱりそういうお仕事なんですね。ちなみに、どんなアプリなんですか」
さて、どう答えたものだろうか。正直にマッチングアプリと答えるべきか、適当にはぐらかすべきか。そもそも今日、圭に会ったのも’どうせ会えないだろう’と言わんばかりの新堂さんの鼻をあかしたいというくらいの理由だ。適当に調子を合わすのも礼儀とは思うが、彼にムダな時間を使わせるのは申し訳ない。これまでのやり取りで、そう思うくらいには私も圭に好意は持っている。
「マッチングアプリです」
「すげー。そんな人、初めて会った。じゃあ、今日もその調査って感じですか」
圭があっさり受け入れるので、嫌味のひとつくらいは言われるだろうと思っていた私は拍子抜けしてしまった。
「そうなんです。貴重なお時間を頂いてすみません」
出来る限り礼を尽くそう。そう思って、丁寧に謝った。
「いいんじゃないっすか。オレもアプリがあるからいろんな女の子に会えてるんで、むしろ感謝したいくらいですよ」
「けっこう会ってるんですか」
「ええ。二日に一人くらいは会ってますよ。アプリで異性と会うための講座もやってますから、講師としての訓練も兼ねてね」
なんだと。もしかして、これは面白い人材を捕まえたんじゃなかろうか。
「でも、調査ならもっと声をかけられるようにプロフィールを作り込まないとダメですよ」
彼に言われるまでもなく、ダメだとは思っていたがやはりダメらしい。仕事の参考にもう少し詳しく聞いてみるか。
「たとえば、どんな風にしたら良いですかね」
「まず写真はきちんと顔を出さないとダメですよ」
「そうなんですね。でも、圭さんは会ってくれたじゃないですか」
「写真を出していない人のうち八~九割くらいは見た目に自信がない人か冷やかしなんです。でも、残りの一~二割に掘り出し物があるんですよ」圭はアイスコーヒーで一息つく。
「写真を出していない人はメッセージも来にくいから、こちらから行くと難易度低めなんです。オレはちょっとした福引き感覚で声掛けちゃいますね」
なるほど、私は福引きだったらしい。精神的な慰謝料を請求したいところだが、今回はその分の情報をもらうことにしようか。
「そうなんですか。やっぱり顔写真を出した方がいいんですね」
「マッチングアプリって、写真がまず出てくるから見た目の重要度は大きいです。そこで選ばれなかったら終わりですもん」
「なんかさみしいですね」
「そうですね。でも、それは仕方ないんじゃないですか。全く知らない人なんだから。まず目に見えるもので勝負しなくちゃ」
「とはいえ、最近は写真も加工できちゃうじゃないですか。そこまで信頼できますか」
「プリクラとか画像加工アプリは弄ってるのがすぐわかるからダメです。それにあまり盛り過ぎるのも、結果として自分の首を絞めることになりますよ。ちょっと良い写真館で撮るくらいが程よいんじゃないですかね」
「会ってから、全然違うじゃんってなったらかえって逆効果ですもんね。他には何かありますか」
「出来れば会話につながる写真がいいですよ。たとえば、背景が海外だったら海外旅行が好きなんだなって伝わるじゃないですか」
「そこまで考えなきゃいけないんですね」
「その辺りは本当に出来ればって感じで。話のきっかけになるようなものは入れておいて損はないですよ。だって、怜子さんともキャラクターの画像があったから仲良くなれたじゃないですか」
「確かにそうですね」
そう言われると、写真ひとつでも随分と伝わることはあるものだな。では、プロフィールはどうしたらいいのだろうか。
「写真って大事なんですね。だったら、プロフィールは意味ない気がしちゃいます」
「そんなことないですよ」
「じゃあ、どんな風にしたらいいですか」
「まず長々と書かないことですね」
「えぇ?最初の判断基準になるんだから、書き込んだ方がいいんじゃないですか」
「長過ぎると読むの大変ですよね。それって、自分のアピールばっかりで相手のことを考えてないじゃないですか」
仕事でも説明ばかりムダに長いヤツを相手にするのは疲れる。それと同じようなことか。
「だから、あんまり長いのは’自分は面倒くさい人間です’って言ってるようなモノですよ。同じくネガティブなのもダメですね」
「そうなんですね。私、自虐的なこと書いちゃうタイプかも」
もう少し詳しく聞きたかったので、思ってもないことを言う。
「自虐が許されるのは、その人のことを知っているからですよ。自分のことを知らない人には言葉通りに受け止められるリスクしかないです。だって、セールスマン自身が’良くない’って言ってる商品を買うお客さんはいないですよね」
「じゃあ、プロフィールにはどんなことを書いたらいいんですか」
「大事なのはやっぱり話のきっかけになるように書くことです。そういう意味では仲良くなりたい相手を想定した方がいいと思います」
「なるほど。例えば、どんな感じですか」
「そうですね。わかりやすいところだと、海外の人と出会いたいならばプロフィールはやっぱり外国語で書いた方がいいでしょう。英語が話せない日本人を弾けるから、日本人でもそれなりの学歴の人を選別できる副次効果もあります」
「でも、ありのままを書かないって何か作ってる感じがしちゃいます」
もっと話を引き出すため、私は圭を挑発してみた。
「理想論としてはそうですよね。でも、恋愛ではまず選ばれないとダメなんです」
「自分を偽ってでも?」
「’はい’と言いたいところですが、そこは価値観がありますからね。ちなみに、オレは自分が持っていて、他人から価値があると思ってもらえるものを見映え良くして、前に出すのは’偽ってない’と思います」
「ありのままの自分を愛してもらいたいなって思いますけどね」
「’ありのままで愛されたい’だなんて、自分を魅力的に見せる努力をしない言い訳にしか聞こえないですよ」
「そうですかね?」私は首をかしげる。
自分から話を引き出したとはいえ、初めて会った男に何でそこまで言われないといけないんだ。
「最初に会った時にわかる相手の印象なんて一部分に過ぎないでしょ。自分も相手のありのままを見抜けるならば否定しませんけれど。相手にだけそれを求めるなら、自分は’努力したくない’って言ってるようなものじゃないですか」
なるほど。理屈っぽい気はするが、そういう見方もあるな。
「それに出会える相手って、基本的には自分と見合った人なんですよ。だから、出来る限り良い相手と出会いたいと思うならば、自分も出来る限り良く見せた方がいいんです」
「でも、好きな人とはいろいろなことを共有したいなって思います。例えば、自分のこだわりとか趣味は受け入れて欲しいな」
「全てを恋人と共有する必要ってありますか。ご自身が好きな趣味も趣味が合うお友だちとしたらいいじゃないですか。入口をわざわざ狭くするって意味ないでしょ」
「でも、私たちは趣味を共有出来たから会えたじゃないですか」
「そうですね。だから、怜子さんには運命を感じますよ」
その言葉を聞いて一瞬びっくりした。しかし、圭が私のことを福引き呼ばわりしたことを思い出す。きっと誰にでもそう言っているんだろう。
「福引きの’当たり’だって言ってましたもんね」
私が答えると圭は少しばつの悪そうな顔をした。
「怜子さんのお気を悪くしたなら、謝ります。でも、話をしていて怜子さんが頭の良い人
だっていうのはわかります。オレ、あんまり頭は良くないからそういう人って素敵だなって思うんですよ」
圭は身体を乗り出して、テーブルの上に出していた私の手に触れる。彼が付けている香水だろうか。良い薫りが私の鼻をくすぐる。
「だから、怜子さんのことをもっと知りたいなって」
私のことを見つめる眼差しは優しげだ。そして、圭は瞳を私から離さない。
「圭さん、お話している中で私も実は貴方に運命的なものを感じました」そう言いながら、私は彼から目を反らす。
「だから、恥ずかしいんですけれど……」
確信的な言葉を言い出す勇気を振り絞る。
「アプリの開発、手伝ってくれません?」
「へ?」
圭は当然意表をつかれたのだろう。目を丸くしている。
「お話を聞いていて、あなたがマッチングアプリに詳しいことがよくわかりました。それにきちんと分析されてる。我々のチームは今のところ素人ばかりでね。是非アドバイスがほしい。もちろん謝礼は払いますよ」
「えっ?い、良いですが、そんなこと怜子さんが決めてしまっていいんですか」
突然の展開に圭は頭がついていっていないようだ。
「大丈夫です。ちょっと話を通す必要はありますが」私は彼が添えた手を力強く握り返す。
「ははは。怜子さんって面白い人ですね。わかりました。じゃあ、後で条件を確認したいので連絡先を交換しましょうよ」
圭はにっこりとして、返事と共にスマートフォンを取り出す。私も手元にあったカバンに手を伸ばすと中にあるスマートフォンを探し出した。そして、通信アプリで連絡先を交換する。
よし。これで私がマッチングアプリを触るという苦労を減らして、アプリ開発を進められそうだ。
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