小説「電子の海で真実の愛を見つける方法」/作:藤間丈司
仲良くなったハズなのに相手から一歩踏み込んでもらえない。会った時の会話も見た目も問題ないハズ。じゃあ、どこに問題がある?。相手との関係を深めるために、今一歩の踏み込み必要なのかも。
第八章「異性として意識してもらうために」
「次に蒔田。何かあるか」新堂さんは蒔田に尋ねる。
「私の方は何人か会うことは出来ているんですが、一度ごはんを食べておしまいって感じが多いですね」
蒔田も上手くいかないのか。意外な気がする。
「そっか。もしよかったらちょっとメッセージのやり取りを見せてもらってもいいかな」圭が伺いを立てる。
「いいですよ」
蒔田はスマートフォンを取り出して操作をした後、圭に手渡した。
「ふーん」圭はしばらく画面を眺めると、顔を上げる。
「菜摘ちゃん、相手とごはんをしている時に恋愛の話とかしてるかい」
「えっ。そういえば、あんまりしてないですね。それが何か関係ありますか」
「うん。メッセージのやり取りでも恋愛っぽい話がほとんどないんだよね」
「そうですか?ちなみに、恋愛っぽい話ってたとえばどんな感じですか」
「わかりやすいところだと好きなタイプとか、これまでの恋愛の話。どんな風に恋人と付き合いたいのかっていうのもあるよね」
「確かにそういう話はあんまりこちらから話さないですね」
「だよね。でも、男って女性側からあんまり恋愛に興味がある雰囲気が出てないと、引いちゃうところがあるんだよ。特に菜摘ちゃんかわいいから、’自分には興味ない’って誤解されがちだと思う」
「興味なさそうだからってそんなに簡単に諦めちゃうものですか」蒔田は口を尖らせる。
「諦めちゃうね。諦めないのは空気読めない奴か恋愛上手なタイプ。まあ、菜摘ちゃんのことがとっても気に入ったって場合もあるけど。それは残念ながら少数だと思うよ」
「そうですか」答える蒔田の声は張りがない。
「あんまりお互いのことを知らない同士だからね。普通はそんなもんだよ。自分から行かないなら、’もしかしたら可能性あるかも’って勘違いさせた方がいい。大丈夫、菜摘ちゃんかわいいから」
「わかりました」蒔田の目には輝きが戻った。
「ちなみに、別の原因で関係が進展しない状況になることは?」私は思ったことを口にする。
「そうだねぇ。たとえば、怜子ちゃんの場合だと’友だち’になっちゃうパターンかな」
「友だち?」
「そう、友だち。怜子ちゃんって男女分け隔てない感じなんだよね」
「確かに、男か女というのはあんまり意識してないかもしれないな」
「でしょ。そうすると、恋愛対象にならないで友だちカテゴリーに入れられちゃう。女性はそれでも相手が見つかるパターンもあるけど、男は難しい」
「そんなものなのか」
「あんまり恋愛慣れしていない男からは友だち感覚で付き合える女性ってニーズあるんだよ。怜子ちゃん、学生時代はそれなりにモテたでしょ」
「意識したことはないが、高校時代も大学時代も恋人は途切れたことがないな」
「マジか!」
新堂さんが何故か大きな声を上げる。私が新堂さんの顔を見つめるとばつの悪そうな表情だ。私はそのまま続ける。
「で、そういう場合はどうしたらいいんだ」
「対応は基本的には一緒で、会話の中に恋愛の話を入れていくといいよね」
「男の場合はどうなんですかね」御手洗は周りを見ながら言った。
「男の場合は、異性と意識していることを出し過ぎるとかえって引かれちゃう傾向にある。だから、’相手のことをちゃんと見てるよ’って間接的に伝えることが有効だよ」圭は御手洗の方を向く。
「具体的にはどういうことですか」
「簡単なのだと、’空調、効き過ぎてない’とか。デートの途中で’疲れてない?’って聞くとか。相手の状況を気にしている言葉や行動をすることだよ」言い終えると圭は再び水を飲む。
「’この人と一緒にいると心地いいな’っていうのをわかりやすく言動で示してあげるんだ」
「なるほど。優しさが大事なんですね」
「だね。でも、あくまでも女性が優しいって感じることが大切だよ。気にし過ぎてあんまり無難なことばかりしてるのは良くない」
その言葉を聞いて、私は先日会った俊雄のことを思い出した。
「そういえば、この前会った男性のことなんだが」
私は俊雄と会った時のことをみんなにシェアした。
「そうだね。それは’良い人でいよう’とするあまり’どうでもいい人’になっちゃってるパターンだと思う」圭はあごを触る。
「そもそも恋愛では大体の人は好かれようと思って行動するからね。優しいのって当たり前なんだよ。受身の優しさじゃ差別化出来ないんだ」
圭はなかなか厳しいことをさらっと言うな。
「とはいえ、そういう人でも恋愛が進展させられる機能があった方がいいよな」新堂さんは腕組みをしている。
「どうしたらいい?」新堂さんは圭を伺う。
「うーん。そういうのって結局、相手の目を気にし過ぎなんだよ。一緒に作業するとか、その人の内面がわかるような機能が付けれたらいいんじゃないかな」
「なるほど。だったら、アプリ内で希望者が参加出来るイベントみたいなのが出来ないかな」
新堂さんの話を聞いていて、私はふと思い付いたことを口に出す。
「それって、アプリゲームのフレンド機能を使ったイベントみたいですね。だったら、イベントで一緒になった人の中に気に入った人がいたら’お気に入り’に入れられるのとか面白いかもしれない」
「おおっ、いいんじゃないか」新堂さんがのってきた。
「どういうのがいいですかね。ゲームもいいですけれど、もう少し手軽なのも欲しいですよね」御手洗も続く。
「診断テスト系は既存のサービスでもやっている会社がありますよね。相性チェックとか、アンケートっぽい感じとかどうでしょうか。御手洗くん、そういうことやってくれそうな人知らない?」蒔田はパソコンを操作しながら付け足す。
「心理テストとかだったら、付き合いがある人に作れる人がいるよ」
それから私たちは、わいわい言いながらアイディアを出しあった。それなりの量の案が出たくらいだろうか。新堂さんが立ち上がる。
「いろいろ出たな。この件は次回また詰めるから、各々も検討を進めてくれ。今日はもう遅いから、一度お開きにしよう」
「良いですけど、新堂さんの報告はないんですか」私は問いただす。
「えっ、俺?お前だって報告なかっただろう」
「私はこの話のきっかけになるような報告をしましたよ」
「そうだったな。でも、今日は時間も遅い。お前らもいい加減帰りたいだろう?」
時間を確認すると、今日視たい番組に間に合うよう帰るにはギリギリの時間になっていた。相変わらず新堂さんは逃げるのが巧妙だ。
「仕方ないですね」
「じゃあ、そういうことで解散」新堂さんはそう言って、場を閉めた。
私が片付けをしてエレベーターに向かうと圭が待っていた。
「お疲れ様」笑顔のお出迎えだ。
「お疲れ。まだ帰ってなかったのか」
「うん。みっくんと話をしていたから」
「そうか。で、御手洗は?」
「もうちょっと仕事してから帰るって。あっ、エレベーター来たよ」
圭はボタンを押して私が中に入るのを待った。そして、私の後から乗り込むと操作盤の前に立つ。
「圭はアドバイザーなんだからそんなことはしなくていいんだぞ」
「これは癖みたいなもんだから気にしないで。それにアドバイザーだからって勘違いしないためでもあるんだ」
「勘違い?」どういう意味だろうか。
「講師とかしてるからって自分が偉いって勘違いしないようにね」
「圭はそういうタイプじゃないだろう」
「どうだろうね。でも、勘違いしちゃった人は見ているから自分を戒めるためにも雑用は率先してやろうかと」
「なるほど。大人だな」
「好きな人の前では格好つけたいっていうのもあるけどね」
それはどういう意味だろうか。圭は私のことを見つめている。思わずその視線から目をそらしてしまう。
‘チーン’
エレベーターが目的階に着いたことを知らせる。
「不粋だな。どうやら今日は時間切れみたいだ。じゃあ、駅まで送るよ」
外に出て空を見上げると満月が出ている。ちょっと自分がおかしくなってるような気がするのはこの月のせいだろうか。
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